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序論

制御機構という表題は、もともとサーボ機構のことを意味して付けた名称である。 サーボ機構(Servo Mechanism)とは、Serve(奉仕)するMechanism(機構)と いう意味からつくられた言葉であり、通常対象物の機械的な位置、変位、角度等 を制御する場合をいう。これに対し制御対象の状態量、すなわち温度、圧力、流 量等を制御する場合をプロセス制御という。

例えば図1.1は飛翔体の誘導制御系を示している。指令通りに飛翔体 が運動するように、その誤差を検出し、安定化を計りながら操舵によって飛翔体 の姿勢を制御する方式である。この場合操舵の部分も、姿勢制御の部分も、また 全体としての空間運動の制御の部分もサーボ系として考えられる。

図 1.1: 飛翔体の誘導制御系
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.65]{eps/1-1-1.eps} \end{center} \end{figure}

サーボ機構もプロセス制御も共に自動制御系の一種である。自動制御とは元来人 間が眼で観測し、頭で考え、手足で操作をするという一連の動作を技術的な方法 によって機械に代行させ、精度の向上と操作の迅速性を計ろうとするものである。 そのため制御された結果と与えられた目標とを絶えず比較して修正するというフィー ドバック機能が用いられる。すなわち図1.2は自動制御系の基本的な 構成を示している。まず制御しようとする対象物がある。これを制御対象 (Plant)という。その制御対象を駆動する装置が必要である。これを操作部 (Controller)という。一方制御された量(これを制御量という)を取り出す装 置が必要であり、それが検出部である。指令として与えられる入力を目標値とい い、目標値と検出された値とを比較し、操作に必要な信号を作り出す部分を調節 部という。検出部が人間の眼に、調節部が頭脳に、操作部が手足に相当する。

図 1.2: 自動制御系の基本構成
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.65]{eps/1-1-2.eps} \end{center} \end{figure}

フィードバック機能を持っているだけに、制御系が適切に設計されていないと不 安定な現象やあるいはハンティングという振動現象などを生じる恐れがある。何 故不安定な現象が生じるか、それを抑えるにはどうしたらよいか、また迅速に応 答させるにはどうしたらよいか、というようなことを理論的に知っておくことも 必要であり、制御理論の目的もそこにある。

制御系は個々の要素から構成されており、それらが全体としての系に応用されて いる。したがってまず各要素の入出力間の関係を数学的に記述することが必要で ある。たとえば図1.3に示すような水槽に水を入れたときの、流入す る水の量 $u$ と水槽の水位 $x$ との間の関係を考えてみる。

図 1.3: 水槽の水位を制御する系
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.45]{eps/1-1-3.eps} \end{center}\end{figure}

最初に流量が $u_0$ のとき水位が $x_0$ で平衡状態が保たれていたとする。


\begin{displaymath}
u_0=x_0/R
\end{displaymath} (1.1)

ただし $R$ は流出口の流体抵抗である。流量が $u_0$ から $u_0+u$ に増加し たとき、その一部分は水位の上昇に用いられ、また他の部分は流出流量の増加に 用いられる。すなわち


$\displaystyle u_0+u$ $\textstyle =$ $\displaystyle C\frac{d}{dt}(x_0+x)+\frac{1}{R}(x_0+x)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle C\frac{dx}{dt}+\frac{x_0}{R}+\frac{x}{R}$ (1.2)

と書ける(ただし $C$ は水槽の底面積)。(1.1)式の関係があるから上式 は、


\begin{displaymath}
RC\frac{dx}{dt}+x=Ru
\end{displaymath} (1.3)

となる。このように $u$ を入力とし $x$ を出力とする微分方程式で記述される。 一般的には各要素の特性は高次の微分方程式となり、かつ外乱をも考慮すると


    $\displaystyle a_0x^{(m)} + a_1x^{(m-1)}+\cdots+a_{m-1}x^{(1)}+a_mx$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle b_0u^{(n)} + b_1u^{(n-1)}+\cdots+b_{n-1}u^{(1)}+b_nu$  
    $\displaystyle + c_0v^{(l)}+c_1v^{(l-1)}+\cdots+c_lv$ (1.4)

で表現される。ここで $(m)$$(n)$$(l)$$m$ 階、$n$ 階、$l$ 階の微係 数を、また $a_m$$b_n$$c_l$ は定数を意味する。また $x$ は出力を、$u$ は入力を、$v$ は外乱を示している。

このように数学的に表示された各要素を結合して制御系を構成した場合、さらに 高次の、かつ複雑な式となる。入力や外乱の形や初期値を与えてこの微分方程式 を解くことも可能ではあるが、必ずしも容易ではない。そこでこれを直接解かず に、次項で述べるようなラプラス変換法を用いると、時間の関数がラプラス演算 子 $s$ の関数に変換でき、そのとき微分方程式が代数方程式となるため容易に 解が得られ、それをまた時間関数に戻すことによって元の微分方程式の解が得ら れる。図1.4に示すように一見廻り道のようであるが、このほうが計 算が容易となる。

図 1.4: 直接法とラプラス変換法の関係
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.65]{eps/1-1-4.eps} \end{center}\end{figure}

制御理論はこのラプラス演算子を用いて展開されている。したがってまずラプラ ス変換法を知ることが必要となる。


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Yasunari SHIDAMA
平成15年4月9日