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位相進み補償

図 1.40: 直列補償
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-1.eps} \end{center} \end{figure}

1.40に示すごとく、制御対象と直列に補償要素を用いる場合を直列補償といい、 その中で、「高周波域で一巡伝達関数の位相を進めることにより安定化をはかる 補償方法」を位相進み補償という。

位相進み補償要素の伝達関数は

\begin{displaymath}
G_c (s)=\frac{1+saT}{1+sT} \hspace{2cm}ただしa>1
\end{displaymath} (1.107)

の形をしており、これをボード線図に描くと、図1.41のごとくである。

図 1.41: 位相進み補償のボード線図
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-2.eps} \end{center} \end{figure}


\begin{displaymath}
\omega_m=\frac{1}{T\sqrt{a}}
\end{displaymath} (1.108)

の周波数のところで最大の位相進みが生じ、その値は
\begin{displaymath}
\phi_m=\sin^{-1}\frac{a-1}{a+1}
\end{displaymath} (1.109)

である。
設計手順として、定常偏差及び位相余裕が与えられた場合
(i)定常偏差から制御系のゲインを決定する。
(ii)そのゲインに対するボード線図(補償前の)を描き位相余裕を求める。
(iii)位相余裕が与えられた値になるように補償回路に付与すべき$\phi_m $を決定する。
(iv)$\phi_m $より補償要素の$a $を決定する。
(v)最大の位相進みがゲイン交点で生じるように補償要素の$T$を決定する。
(vi)ボード線図上に補償後の特性を描き、位相余裕が与えられた値になっているかを確かめる。
[例]制御対象の伝達関数が $G(s)=K/{s(s+1)}$の制御系において、ランプ入力 $(1/s^{2})$に対する定常偏差を$0.1$以下とし、かつ位相余裕を$45^{\circ}$以上とするような位相進み補償を設計する。
(i)まず定常偏差より

\begin{displaymath}
e(\infty )=\lim_{s\to 0}\frac{1}{1+\frac{K}{s(s+1)}}\cdot\frac{s}{s^2}
=\frac{1}{K}=0.1
\end{displaymath}

$K=10$にとる。
(ii)$K=10$にとったボード線図を描く。(図1.42の実線)
図 1.42: 位相進み補償のボード線図
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-31.eps} \end{center} \end{figure}

(iii)図より位相余裕は$18^{\circ}$であり、不足分は $45^{\circ}-18^{\circ}=27^{\circ}$ であるが、$\phi_m $$30^{\circ}$にとる。
(iv)(1.102)式より
$\sin 30^{\circ}=\frac{a-1}{a+1}$となり
$a=3$
を得る。
(v)補償回路の $\omega \to \infty $におけるゲインの増加は
$20\log_{10}3=9.54dB$
であり、最大の位相進み角となるのはこの半分の所、すなわち$4.77dB$の所である。 したがって、補償前のゲイン特性が$-4.77dB$となる所を$\omega_m$とし、
図より
$\omega_m=4.16rad/sec$
が得られる。(1.108)式より

\begin{displaymath}
T=\frac{1}{\omega_m\sqrt{a}}=\frac{1}{4.16\sqrt{3}}=0.139
\end{displaymath}

となる。
(vi)補償要素の伝達関数は(1.107)式から次のごとくなる。

\begin{displaymath}
G_c(s)=\frac{1+0.416s}{1+0.139s}
\end{displaymath}

これをボード線図に描き(図1.42鎖線)、補償前の特性に加えて補償後の特性を 描く(図1.42破線)。位相余裕が$46^{\circ}$あるので与えられた値を満足している。

一般に位相進み補償による効果は、次のごとくである。
(a)位相余裕が増し安定度が改善される。
(b)帯域幅が広くなり速応性が改善される。



Yasunari SHIDAMA
平成15年4月9日