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記述関数法による安定判別

一般に非線形特性は制御要素の中に含まれているが、通常は制御要素の線形的特 性の部分と、非線形特性の部分を分けて、図5.10のように取り扱う。 図中$G(s)$は線形特性部分の伝達関数であり、$G_n(V_0)$は非線形特性部分の記 述伝達関数である。前述のように記述伝達関数は入力信号の振幅$V_0$の関数と なっている。
図 5.10:
\includegraphics[scale=0.60]{eps/5-2-8.eps}

もしこの系に振動が発生すると、非線形要素の出力信号$U$の波形は形の歪んだ ものとなるが、制御対象で高調波成分が減衰するため、その出力信号$X$は正弦 波に近くなる。それがフィードバックされて非線形要素への入力$V$となるから、 それはほぼ正弦波状であると見なされる。

そこで記述関数を線形系と同様に扱い、図5.10の閉回路伝達関数を求めると

\begin{displaymath}
\frac{X(s)}{R(s)}=\frac{G_n(V_0)G(s)}{1+G_n(V_0)G(s)}
\end{displaymath} (5.36)

となり、特性方程式は
\begin{displaymath}
1+G_n(V_0)G(s)=0
\end{displaymath} (5.37)

となる。これより
\begin{displaymath}
-\frac{1}{G_n(V_0)}=G(s)
\end{displaymath} (5.38)

の関係が得られる。

通常線形系の安定判別はベクトル軌跡を描き、それが$-1+j0$の点を右に見るか、 左に見るかによって行うが、非線形の場合は上式からわかるように、線形部分の ベクトル軌跡が$-1/{G_n(V_0)}$に対してどのような関係にあるのかを 調べることによって安定判別を行う。

例えば非線形要素がヒステリシスのない2位置リレーの場合、記述関数の逆数は (5.24)式より

\begin{displaymath}
-\frac{1}{G_n(V_0)}=-\frac{\pi V_0}{4A}
\end{displaymath} (5.39)

であり、$h=0$のため位相遅れはないので、これを$V_0$$0$から$\infty$まで 変化させたときのベクトル軌跡を描くと図5.11のように負の実軸上の 線となる。一方線形部分$G(j\omega)$のベクトル軌跡を図に示したようなものと した場合、$\omega$$V_{03}$点より小さい範囲は相当する$-1/{G_n(V_0)}$の 線を左側に見るので安定領域、$V_{03}$点と$V_{02}$点の間は右側に見るので不 安定領域、$V_{02}$点と$V_{01}$点との間は安定領域、$V_{01}$点より大きい範 囲は不安定領域となる。
図 5.11:
\includegraphics[scale=0.60]{eps/5-2-9.eps}

したがって、$V_{03}$点または$V_{01}$点で自励振動(リミットサイクル)を生 じることになる。(この点をConvergent equilibrium pointという)。$V_{02}$ 点も振動発生の可能性を持っているが、少しいずれかの方向にずれると$V_{03}$ 点または$V_{01}$点へ移行するので持続されない(この点をDivergent equilibrium pointという)。$V_{03}$あるいは$V_{01}$点で発生した自励振動 の振幅は、その点の$V_0$の値(すなわち、$V_{01},V_{03}$)より求まり、周波 数は、その点の$G(j\omega)$$\omega$の値から求められる。

ヒステリシスのある3位置リレーの場合は(5.31)式、 (5.32)式より

\begin{displaymath}
G_n(V_0)=\frac{4A}{\pi V_0}\sin \left( \frac{\psi +\theta}{2} \right)
\end{displaymath} (5.40)


\begin{displaymath}
\angle G_n(V_0)=- \left( \frac{\psi -\theta}{2} \right)
\end{displaymath} (5.41)

$\begin{array}{cc}
ただし & \theta = \cos ^{-1}\frac{\displaystyle{d+h}}{\displ...
...
& \psi = \cos ^{-1}\frac{\displaystyle{d-h}}{\displaystyle{V_0}}
\end{array}$
であるから、ベクトル軌跡は図5.12のようになり、$G_1(j\omega)$ の場合は$V_{01}$点でリミットサイクルを生じ、$G_2(j\omega)$の場合はリミッ トサイクルを生じない安定な系であることがわかる。
図 5.12:
\includegraphics[scale=0.60]{eps/5-2-10.eps}

制御対象にむだ時間がある図5.13のような制御系の場合、むだ時間 が大きいと線形部分のベクトル軌跡は渦状になり、$-1/{G_n(V_0)}$ の線と2回 以上交わる。この場合は一番外側の交点が安定なリミットサイクル点である。

図 5.13:
\includegraphics[scale=0.60]{eps/5-2-11.eps}

また位相遅れのある非線形要素を含む場合線形部分のベクトル軌跡を描くと $\omega =0\sim \infty$ $\omega =-\infty \sim 0$を描くと2点で交わる。こ の場合 $\omega =0\sim \omega$の軌跡との交点のみが安定なリミットサイクル点 である。 $\omega =-\infty \sim 0$については$-1/{G_n(V_0)}$の線との交点を 考える必要があり、それは実軸に対して鏡像となるので、 $\omega =0\sim \infty$ の場合と同じ結果が得られる。

図 5.14:
\includegraphics[scale=0.60]{eps/5-2-12.eps}


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Yasunari SHIDAMA
平成15年7月28日