もしこの系に振動が発生すると、非線形要素の出力信号の波形は形の歪んだ ものとなるが、制御対象で高調波成分が減衰するため、その出力信号は正弦 波に近くなる。それがフィードバックされて非線形要素への入力となるから、 それはほぼ正弦波状であると見なされる。
そこで記述関数を線形系と同様に扱い、図5.10の閉回路伝達関数を求めると
(5.36) |
(5.37) |
(5.38) |
通常線形系の安定判別はベクトル軌跡を描き、それがの点を右に見るか、 左に見るかによって行うが、非線形の場合は上式からわかるように、線形部分の ベクトル軌跡がに対してどのような関係にあるのかを 調べることによって安定判別を行う。
例えば非線形要素がヒステリシスのない2位置リレーの場合、記述関数の逆数は
(5.24)式より
(5.39) |
したがって、点または点で自励振動(リミットサイクル)を生 じることになる。(この点をConvergent equilibrium pointという)。 点も振動発生の可能性を持っているが、少しいずれかの方向にずれると 点または点へ移行するので持続されない(この点をDivergent equilibrium pointという)。あるいは点で発生した自励振動 の振幅は、その点のの値(すなわち、)より求まり、周波 数は、その点ののの値から求められる。
ヒステリシスのある3位置リレーの場合は(5.31)式、
(5.32)式より
(5.40) |
(5.41) |
制御対象にむだ時間がある図5.13のような制御系の場合、むだ時間 が大きいと線形部分のベクトル軌跡は渦状になり、 の線と2回 以上交わる。この場合は一番外側の交点が安定なリミットサイクル点である。
また位相遅れのある非線形要素を含む場合線形部分のベクトル軌跡を描くと と を描くと2点で交わる。こ の場合 の軌跡との交点のみが安定なリミットサイクル点 である。 についてはの線との交点を 考える必要があり、それは実軸に対して鏡像となるので、 の場合と同じ結果が得られる。