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ブール代数の公理系

さて,ここで集合の体という具体的な概念から抽象して,代数構造( $A,+,\cdot,-,0,1$)を考えましょう. ここで,それぞれ $A$ は集合の体 $A_s$ に, $+$$\cup $ に, $\cdot$$\cap $ に, $-$$\sim$ ($\cup A_s$ に関して)に, 0 は空集合 0に, 1 は $\cup A_s$ に対応させたいわけです。
まず, $+,\cdot,-,0,1$ についての公理を書き出し,集合の体の具体的な概念を完全に公理化します。
その後,我々の公理化が実際, 具体的な概念間の全ての真な等式を捉えていることを示します。
全てのブール代数において, $+,\cdot,-,0,1$ はブール代数上の演算,定数であることに注意してください.もちろん, 0と1は,整数の0と1とは全く異なる意味で用いられます。

定義3
ブール代数(Boolean Algebra)(今後頻繁に $BA$ と略します)は,次の(1),(2)を満たす体系 ${\cal A}=(A,+,\cdot,-,0,1)$ である:

  1. $A$ は空でない集合である.$ 0,1\in A.$ また, $+$$\cdot$$A$ 上の 2項演算, $-$$A$ 上の1項演算であって, $A$$+,\cdot,-$ につ いて閉じている;
  2. 任意の $x,y,z \in A$ について,次の条件(i) $\sim (v)$ を満足する:
    1. $x+y=y+x$ そして $x \cdot y=y \cdot x$ (交換律,交換法則);
    2. $x+(y+z)=(x+y)+z$ そして $x \cdot (y \cdot z)=(x \cdot y) \cdot z$ (結合律,結合法則);
    3. $x \cdot y+y=y$ そして $(x+y) \cdot y=y$ (吸収律,吸収法則);
    4. $x \cdot (y+z)=x \cdot y+x \cdot z$ そして $x+y \cdot z=(x+y)
\cdot (x+z)$ (分配律,分配法則);
    5. $x \cdot -x=0$ そして $x+-x=1$ (補元律,補元法則,相補法則)
(任意の $x \in A$ について,$-x$$x$ の補元(complement) といいます。 ).
(上で,結合の強さ(演算の優先順位)は,$-$ が最も強く,その次に $\cdot$ , 最後に $+$ です。
この約束によって,括弧が省略できます。 )

特に,$x+y=y$$x \leq y $ と書くことにします。
$A$${\cal A}$ の,宇宙(universe),あるいは 基礎集合(下敷きとなる集合)(underlying set) と呼びます。

(定義3の終わり)

定義3の(i) $\sim (v)$ はブール代数を定義するための公理です。
今後,ブール代数の公理といったら,この(i) $\sim (v)$ を意味します。
$3(i) \sim 3(v)$ というように引用します。
$+,\cdot,-$ を総称して,Boole演算(ブール演算)(Boolean operataion)といいます。
補元は一意的です ((演習4)(4)).つまり,任意の $x \in A$ について,


\begin{displaymath}(x \cdot y=0 \; \; ~and~ \; \; x+y=1) \Rightarrow y=-x \end{displaymath}

です。

(余談ですが,字体について.上の $A_s$ は,$A$ のスクリプト体, ${\cal A}$ は,$A$ のドイツ語の花文字のつもりです。
フォントがないのでこう書きました.また,数式の文字は,実際は全てイタリックです。
$<A,+, \cdot ,-,0,1>$ の丸括弧も,本当は不等式の括弧で表したいのですが,そうするとこの掲示板では引用になってしまいますので, やむなく丸括弧にしました(^^;)

[重要] このセミナーにおいて,特に断らない限り,任意のブール代数 $(BA)$ は上の ${\cal A}$ で,また任意の要素は, $A$ の要素 $x,y,z$ 等として取り扱います。
おきまりのチェックによって,次がいえます。

系4 もし, $A_s$ が集合の体ならば, $(A_s,\cup ,\cap ,\sim,0,\cup A_s)$ はブール代数であり, $\cup A_s$ の部分集合のブール集合代数(Boolean set algebra of subsets of $\cup A_s$ )と呼ばれる.

[証明] (演習4)(1)     [証明終わり]
定義3の公理の形から明らかなように,次の命題に注意してください.

[命題5] もし, ${\cal A}=<A,+, \cdot ,-,0,1>$$BA$ ならば, $(A, \cdot ,+,-,1,0)$ もそうである.

[証明] (演習4)(2)     [証明終わり]

命題5から,双対の原理(duality principle)がでてきます。
つまり,初めの $<A,+, \cdot ,-,0,1>$ について $BA$ で成立する文(式)は,そこに現れる全ての $+, \cdot ,0,1$ をそれぞれ, $\cdot,+,1,0$ で置き換えたものは,2番目の $(A, \cdot ,+,-,1,0)$ でも成立します。
我々は今後,この双対の原理を自由に用いることにします(演習のときにも自由に使ってください.). ブール代数で成立する基本的な式(定理)は 第4回で提示,証明,演習します。
さて,演習でその準備として基本的なことをチェックしましょう.

(演習4)
  1. 系4を証明しなさい.
  2. 命題5を証明しなさい.
  3. $BA$ で, $x+x=x,x \cdot x=x$ (べき等律),
    $x \cdot 0=0,x \cdot 1=x,$
    $x+0=x,x+1=1$
    が成立することを,証明しなさい.(ブール代数の公理を用いて証明する のですよ.)
  4. ブール代数において,補元が一意的であることを証明しなさい.
  5. ブール代数において, 0と1の働きをする要素はそれぞれ1つしかないこ とを証明しなさい.
  6. $BA$ で,次が成り立つことを証明しなさい.
    1. $x \leq y \Leftrightarrow x \cdot y=x;$
    2. $x \leq y \Leftrightarrow x \cdot -y=0.$

(注)上の $ (4) \sim (6) $ は全てブール代数の公理を用いて証明します。 )


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Yasunari SHIDAMA