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位相遅れ補償

直列補償の他の方法として、位相遅れ補償がある。これは一巡伝達関数の 時定数がたがいに接近していると位相進み補償を使用することができない。 そのような場合に用いられるもので「高周波域でゲインを一定値下げて安定化をはかる 補償方法」である。
位相遅れ補償要素の伝達関数は

\begin{displaymath}
G_c(s)=\frac{1+saT}{1+sT} \hspace{2cm} ただし a<1
\end{displaymath} (1.110)

の形をしており、これをボード線図に描くと図1.43のごとくである。

図 1.43: 位相遅れ補償のボード線図
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-3.eps} \end{center} \end{figure}

時定数が接近していると、図1.44のごとく$-40dB/dec$の線が短くて$-60dB/dec$ になるので位相進み補償では安定化がはかれない。そこで位相遅れ補償により高周波域 でゲインを下げると同図破線のごとくなり、$0dB$の線と$-20dB/dec$の傾斜で交差 するので安定化される。

図 1.44: 時定数が接近しているときのボード線図
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-4.eps} \end{center} \end{figure}

設計手順として、定常偏差及び位相余裕が与えられた場合
(i)定常偏差から制御系のゲインを決定する。
(ii)そのゲインに対するボード線図(補償前の)を描く。
(iii)与えられた位相余裕に$5^{\circ}$を加えた位相余裕となる周波数 $\omega_{c}^{'}$ を求める。
(iv)補償後のゲイン交点が $\omega_{c}^{'}$になるように補償回路の減衰ゲインを決定する。 これより$a $を求める。
(v)補償回路の高周波側の折点周波数$1/aT$ $\omega_{c}^{'}$より$1dec$低く決定する。 ( $\frac{1}{10}\omega_{c}^{'}$にする。)これより$T$を求める。
(vi)以上により補償回路の伝達関数を決定し、ボード線図上に補償後の特性を描き、 検討する。
[例]制御対象の伝達関数が $G(s)=\frac{K}{s(1+0.2s)^2}$の制御系において、ランプ入力 $(\frac{1}{s^2})$に対する定常偏差を$0.1$以下とし、かつ位相余裕を$45^{\circ}$以上 とするような位相遅れ補償を設計する。
(i)定常偏差より

\begin{eqnarray*}
e(\infty)&=&\lim_{s\to 0}\frac{1}{1+\frac{K}{s(1+0.2s)^2}}\cdot\frac{s}{s^2}\\
&=&\frac{1}{K}=0.1\\
K&=&10
\end{eqnarray*}

にとる。
(ii)K=10にとったボード線図を描く。図1.45の実線。
図 1.45: ボード線図
\begin{figure}\begin{center}
\psbox[scale=0.50]{eps/1-8-5.eps} \end{center} \end{figure}

(iii)与えられた位相余裕$45^{\circ}$$5^{\circ}$を加えた位相余裕$50^{\circ}$ となる周波数を
  図より求めると

$\omega_{c}^{'}=1.8rad/sec$
(iv)その点のゲインを求めると図より$15dB$となるから

$+20\log_{10}a=-15dB$

より

$a=0.178$
(v) $\frac{1}{aT}=\frac{1}{10}\omega_{c}^{'}=0.18$

$T=\frac{1}{0.18a}=31.2$

$aT=5.56$
(vi)補償要素の伝達関数は次のごとくなる。

$G_c(s)=\frac{1+5.56s}{1+31.2s}$

これをボード線図に描き(図1.45鎖線)補償前の特性に加えて、補

償後の特性を描く (図1.45破線)。

一般に位相遅れ補償による効果は次のごとくである。
(a)同一の定常偏差に対し安定度を向上する。
(b)高周波域が遮断され、ノイズに対して有利になるが、速応性は減ずる。



Yasunari SHIDAMA
平成15年4月9日