直列補償の他の方法として、位相遅れ補償がある。これは一巡伝達関数の
時定数がたがいに接近していると位相進み補償を使用することができない。
そのような場合に用いられるもので「高周波域でゲインを一定値下げて安定化をはかる
補償方法」である。
位相遅れ補償要素の伝達関数は
時定数が接近していると、図1.44のごとくの線が短くて
になるので位相進み補償では安定化がはかれない。そこで位相遅れ補償により高周波域
でゲインを下げると同図破線のごとくなり、の線との傾斜で交差
するので安定化される。
設計手順として、定常偏差及び位相余裕が与えられた場合
(i)定常偏差から制御系のゲインを決定する。
(ii)そのゲインに対するボード線図(補償前の)を描く。
(iii)与えられた位相余裕にを加えた位相余裕となる周波数
を求める。
(iv)補償後のゲイン交点が
になるように補償回路の減衰ゲインを決定する。
これよりを求める。
(v)補償回路の高周波側の折点周波数を
より低く決定する。
(
にする。)これよりを求める。
(vi)以上により補償回路の伝達関数を決定し、ボード線図上に補償後の特性を描き、
検討する。
[例]制御対象の伝達関数が
の制御系において、ランプ入力
に対する定常偏差を以下とし、かつ位相余裕を以上
とするような位相遅れ補償を設計する。
(i)定常偏差より
(iii)与えられた位相余裕にを加えた位相余裕
となる周波数を
図より求めると
(iv)その点のゲインを求めると図よりとなるから
より
(v)
(vi)補償要素の伝達関数は次のごとくなる。
これをボード線図に描き(図1.45鎖線)補償前の特性に加えて、補
償後の特性を描く (図1.45破線)。
一般に位相遅れ補償による効果は次のごとくである。
(a)同一の定常偏差に対し安定度を向上する。
(b)高周波域が遮断され、ノイズに対して有利になるが、速応性は減ずる。