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前項で述べたようにの場合は目標値に到達する以外に他の拘束を加える
ことができる。そこで任意の初期状態
から目標値
にサンプリングで到達させると共に、その制御に要するエネルギを最小にする場
合を考える。
制御エネルギとしては、単入力の場合
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(4.157) |
と定義する。
もしの場合は目標値には到達できない。その時は目標値と最終状態変数との差、
すなわち誤差ベクトルの測度
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(4.158) |
を最小にするように考える。
のときは
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(4.159) |
となる。
目標値に到達する為には(4.150)式から
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(4.160) |
を満足する
を定めればよい。特に
のときは
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(4.161) |
となる。
はの非正方行列である。したがって
を求めるためには
非正方行列の逆行列を求めなければならない。
いま連立方程式
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(4.162) |
をマトリクス表示すると
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(4.163) |
ただし
となる。のときは
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(4.164) |
として扱えるが、のときは
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(4.165) |
とする。
をright inverse,
をleft inverse という。
これを用いると(4.164)式の解
は
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(4.166) |
と書ける。何故ならこの式に
を左から掛けると
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(4.167) |
となって (4.164)式となるからである。いまの場合、すなわち
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(4.168) |
という同次方程式を考える。この時
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(4.169) |
が解となる。何故なら
を左から掛けると
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(4.170) |
となるからである。ここで
はの任意のベクトルである。したがって
(4.164)式の一般解は
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(4.171) |
となり、
は任意ゆえ
は無数に存在し、
も多数存在す
る。
[例]
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(4.172) |
の場合
であるが、任意の
として次の場合を考える。
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(4.173) |
これは
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(4.174) |
となりright inverseを満足する。
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(4.175) |
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(4.176) |
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(4.177) |
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(4.178) |
いま
とすると
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(4.179) |
となりについての無限の解が得られる。
上記のごとく非正方逆行列は無数存在するので、その中から
の解を
最小にする場合を求める。すなわち(4.172)式の一般解を用いて
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(4.180) |
とし、上式が最小となるように
を定める。すなわち
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(4.181) |
とし
で偏微分し
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(4.182) |
これを0とするときの
を
とした場合
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(4.183) |
となる。いま(4.181)式が最小となる場合の
を
とし、
その場合の
を
としたとき
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(4.184) |
となる。この両辺に
を左から掛けると
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(4.185) |
となる。したがって
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(4.186) |
と書ける。両辺に前から
を掛けると
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(4.187) |
となり、これより
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(4.188) |
となるので、これを再び(4.187)式の右辺に代入すると
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(4.189) |
となって
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(4.190) |
の関係が得られる。これは
がの階数のときの最小非正方逆行列であり、
これをPseudo Inverseともいう。
がの階数のときは
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(4.191) |
とし、
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(4.192) |
より最小非正方逆行列が得られる。
[例]前例における最小値を求める。
であるから
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(4.193) |
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(4.194) |
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(4.195) |
となり
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(4.196) |
が最小値である。前例の結果の(4.180)式より
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(4.197) |
を用いて
とし、に対する
の最小値を求めると
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(4.199) |
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(4.200) |
となるので、これを(4.196)式に代入すると
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(4.201) |
となって、(4.197)式と同一の結果が得られる。
(4.162)式で示したように、のときは
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(4.202) |
で表される。サンプリングで状態ベクトルを0とする最小の
を
とした場合、この式は(4.164)式に対応し、
が
に、
が
に、
が
に相当する。したがっ
て、(4.158)式で定義したエネルギを最小にする制御は
を最小にする
の逆行列の問題となり、(4.191)式より
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(4.203) |
より求められる。そのときの制御エネルギは
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(4.204) |
である。もし任意のに対して最小エネルギ制御をしようとするならば、
図4.19のような制御器を用いればよい。
図 4.19:
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[例]いま4.6節(1)項の例で与えられたシステム
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(4.205) |
の最小エネルギ制御を求める。
のを適用して
を求めると
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(4.206) |
となる。これより
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(4.207) |
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(4.208) |
が得られ
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(4.209) |
となる。したっがて最小エネルギ制御の為の入力は
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(4.210) |
となり、もしが
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(4.211) |
で与えられたとき
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(4.212) |
が各サンプリングごとに加える制御入力となり
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(4.213) |
がエネルギである。
同様にしてについて求めると
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(4.214) |
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(4.215) |
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(4.216) |
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(4.217) |
となる。以上より、をに近くとるほど全エネルギが大きくなり、また
も大きくなる。したがってに制限がある場合には、が制限値を
越えないようにの値を増大させる。前例でと制限したときは
となる。
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Yasunari SHIDAMA
平成15年6月30日